「パティシエが行く」〜旬素材を求めて農園へ〜

Vol.02

Fruit tomato

フルーツトマト生産者 「井上ハウス園芸」(鏡野町下原)井上雅之さん

鏡野の自然に育まれた完熟トマト

 岡山県鏡野町の特産品として、今や全国的にも知られるようになったフルーツトマト。パティスリーWAKANAの人気商品であるフルーツトマトジュレ「まっかなときめき」にも、この完熟ブランドトマト「あじわいとまと」が丸ごと1個贅沢に使われています。
生産しているのは、WAKANAの契約農家「有限会社井上ハウス園芸」の井上雅之さん(54歳)。農園は、中国道・院庄インターから北へ車で約5分、吉井川の支流に程近い、のどかな場所に位置しています。ここで井上さんは、2代目として昭和43年(1968年)に父が築いた約75アール、4棟の広大なハウスを受け継ぎました。今では家族やパートさんとともに愛情をいっぱいに注ぎながら日々トマト栽培に精魂を込めています。

「ひと味違うこだわりトマトを作りたい」

吉井川の清らかな水や、さんさんと降り注ぐ太陽の恵みをたっぷり受けた「あじわいとまと」は、高い糖度と濃厚なうま味、みずみずしくやさしい味わい。木成りで赤く熟すため、栄養もたっぷり含まれています。実が詰まっていて硬さがあり、加工がしやすいというのも大きな特徴です。ここに行きつくまでにはさまざまな品種を試したという井上さん。現在では、その条件を兼ね備える「桃太郎ファイト」をおもに栽培しています。
ハウスの中は、半そでTシャツでちょうどいいぐらいの暑さ。青々と茂ったトマトの苗には、真っ赤に色づいたつややかなトマトがたわわに実をつけています。「糖度、大きさ、きれいな形と、三拍子揃ったトマトを追求するとなると、やはり作り方にかなり工夫が必要なんですよ」と井上さん。生育に大きな影響を与える気温は、日中は23~28℃、夜間は10~15℃程度に年中ヒーターで管理。そして、土を使わず、根に栄養分の入った養液を供給して育てる水気耕栽培を採用しています。苗の根元のマットをめくると、白いトマトの根がびっしりと生え、縦横に伸びているのがわかります。この養液に入れる肥料濃度は通常より6倍ぐらいに上げ、食塩を混ぜることで、水の吸収を抑えて「ストレスをかける」のだそうです。「そうすれば、実に糖分をたくわえようとする力が働くんです。制御した環境でじっくり育てることで実が熟し、果肉がしっかり詰まった濃厚な味のトマトに育つんですよ」と秘訣を教えてくれました。また、水分を制御することで、トマトの成分が凝縮され、サイズも小ぶりになるそうです。実際に市場で主流となっているのは、かつての大玉より小さな直径4~5㎝サイズ。収穫や出荷に相当な手間がかかり人手の確保も大変ですが、「『これならおいしくて食べやすい!』と皆さんに思っていただける、ひと味違うおいしいトマトを作りたいというのが一番」と井上さんはきっぱり。生産者の方の労力と情熱がうかがえますね。

生産者×パティシェの出会い

井上さんとオーナーパティシェ・大塚嘉之さんとの出会いは、さかのぼること14年前。当時・美作大学技術交流プラザ(現・つやま新産業創出機構)で津山市役所職員、津山地方振興局(現・産業支援センター)、産業活性化アドバイザー、加工業者、津山市圏域の農業者、美作大学が共同して新たな特産加工品を創り出そうという主旨の会合が開かれました。その場でふたりが同席したのが最初の出会いだそうです。「大きなテーマになったのは、規格外のため出荷できないトマトを何とか利用できないかという津山地方振興局からの依頼でした。いかにB級品を加工し、付加価値を付けて消費者のもとに届けるかという課題にみんなで知恵を出し合いましてね。今でこそ食品ロスへの意識は高まっていますが、当時はまだそのような仕組みは確立しておらず、すべてが手探りでした」と大塚シェフは振り返ります。

「B品を美スイーツに」。試行錯誤の2年。

当初、ジュースにしては?という案も出ましたが、最終的には、素材の味が生かせて、嗜好品的な要素もあるゼリーにするということで、話はいったんまとまりました。けれども、そこからが試行錯誤の連続だったそう。「スイーツにするためには、「どういう商品にするか」というコンセプトがしっかりしていないと開発が進みません。さまざまな味や食感のゼリーを試作しては、地域の農家の方や、女子大生などいろいろな層の方に試食してもらって意見を求めました。全国から他社のトマトゼリーを取り寄せて分析もしました。最終的には、「健康志向で、おいしく、食べやすい」という本来のテーマに絞り、フルーツトマトの味わいを生かすため、裏ごしして使うという方法を考案したのです」と1年半に及んだ試作の苦労を語る大塚さん。味わい、配合率、ターゲット、価格などさまざまなファクトを検討し、「これだ!」と全員が納得できるトマトゼリーが完成しました。
トータル2年に渡るゼリー作りの過程を「中国四国地域若い農業者のつどい」で井上さんが発表したところ、見事最優秀賞に! 2006年には山形県で行われた「全国農業青年交換大会」でも発表し、結果は準優勝だったものの、地域ぐるみの取り組みが関係者から高く評価されたそうです。まさに現在の「6次産業化」や「産官学協働」などの草分け的な取り組みでもあったのです。

生産者の情熱が詰まったジュレ誕生!

当時から、若手生産者と業者として、商品開発をしながら会議の後には懇親会をしながらいろいろなことを話していた、大塚さんと井上さん。これまで10年を越える長い付き合いの中から強い信頼関係も生まれています。WAKANAの「まっかなときめき」には、一番旨みが乗ってくる4~5月に収穫された、一般のトマトの2倍にあたる糖度9~10のフルーツトマトだけが使われています。「鏡野町の豊かな自然の恵みをぎゅっと凝縮したフルーツトマトのおいしさを全国の皆さんに知っていただけるよう、これからも日々心を込めてトマトに向き合っていきたいです」と語る井上さん。ご家族やスタッフとともにファームから笑顔で見送ってくれました。

WAKANA SELECTION

井上ハウス園芸さんのトマトを使った、わかなの商品

完熟フルーツトマトのジュレ「まっかなときめき」

2830円(6個)(税別)

とても甘くてジューシーなフルーツトマトをていねいに裏ごし。口に入れるとプルルンとした食感と、フルーティーなトマトのおいしさが広がるデザート。凍らせて食べると、シャーベットのように爽やかなトマトの甘酸っぱさが口の中で溶けておいしさが際立ちます。

  1. シリーズ

    「パティシエが行く」〜旬素材を求めて農園へ〜

  2. 八重桜の塩漬け

  3. 木成り熟成フルーツトマト

  4. 津山産小麦

  5. いちご

  6. ブルーベリー

  7. 大玉の清水白桃

  8. 酵素で育つピオーネ

  9. 幻の酢梅

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