ブルーベリー生産者 「美咲ブルーベリーファーム寒竹」(久米郡美咲町)
カフェもある県内有数のファーム
美しい棚田風景が広がることで、棚田百選にも認定されている岡山県久米郡美咲町。澄んだ空気と水に恵まれた自然豊かな地にある「美咲寒竹ブルーベリーファーム」を訪れてみました。約67アールの三段畑に、見渡す限りの緑濃いブルーベリーの木が茂っています。開園当初は600本だったという木も、今では1000本以上に。約50種を栽培する県内でも有数の大規模農園として知られています。
「最近では県外からも見学や観光の方が来られてね、こんなに生命力のある元気な木は見たことがないって皆さんおっしゃるんですよ」と朗らかに話してくれるのは、家族でブルーベリー栽培や稲作を営む寒竹とよ子さん。WAKANAとのお付き合いは、大塚シェフが「良質なブルーベリーの生産農家はないか」と探して問い合わせをしたことから始まったそうです。今では「アクアベリー」のネーミングでブランド化。ブルーベリー狩りができる観光農園として開放するほか、カフェや加工品の販売コーナーも併設しているので、夏の収穫シーズンには県内外から多くの観光客が訪れます。
独自に工夫・改良したシステムで栽培
ご主人の寒竹昭則さんは、元は建築会社を営んでいましたが、別の事業の柱も考えたいと農作物の栽培を検討していました。「土木仕事の端境期に収穫できるブルーベリーはちょうどいいかなあと思ったんですが、実際は収穫するまでの準備のほうに手間と時間がかかってね。両立は難しいということで、今ではブルーベリーがメインになっています」と昭則さん。もともと研究熱心なタイプで、「やるならいいものを」と栽培方法などを徹底的に調べたそうです。そして、久留米市の農業資材会社から、ブルーベリー栽培にもっとも適していると判断したシステムを導入。以来10年間、ご夫婦と、地域の農業を支援する「農業女子」も務める2人の娘さんを中心に農園を運営してきました。
「生命力を感じる」とまで評されるたくましい木を育てる秘密は、その栽培システムをベースにした苗1本ずつのポット栽培にあります。「インターネットで調べても、栽培方法は人によってまちまちでね。その通りやっとっても失敗も多かったんです。それで、植えるブルーベリーの性質に合わせて自分たちで改良していきました」と話す。たとえば、培土には、「アクアフォーム」といって、オアシスを粉にしたような保水性の高い給水スポンジを使用。そこに独自にブレンドした有機肥料をティーバッグのような茶袋に詰めて、まるでコーヒードリップのように液肥が落ちるように工夫しています。さらに乾燥や害虫防止のためにヒノキの皮で覆い、ナイロンをかけておくなど手間も愛情もかけて栽培しています。いっぽう、施肥と水やりはコントローラーで徹底的に管理するため効率面も重視しています。「土壌のPHによって味も変わってくるので、調整は欠かせません。10年の間に、元のシステムを好きなように改良してしまったんですよ」と娘さんと奥さんが顔を見合わせて笑います。
愛情かけた約50種の青い宝石たち
「最初の3年ぐらいは、実がなる前に、あえて枝を剪定してしまうんです。そうすることによって、よりたくましい木になり、ひとつひとつの粒がとても大きくなるんですよ」と奥さん。オニール、ミスティ、ジュエル、ラビットアイ、スパルタン…など収穫の時期や甘さ、酸味などが異なる約50種という多品種を育て、個別に管理することで、それぞれの味の特徴を生かした元気な木が育つのだとも。
また、本数が多い分、栽培や収穫の苦労も並大抵ではありません。虫を取ったり、実を一粒ずつ摘んだりするのはすべて手作業。選別していく作業はかなり根気と手間が必要です。それを選果機にかけ、再度粒を選別していくという二重の選別をしています。「こうした独自の栽培方法や選別作業をすることで、品種ごとに違うブルーベリーのおいしさを皆さんに知っていただくことができるようになりました」と寒竹さんは、人懐っこい笑顔で話してくれます。こうした試行錯誤の10年を経て手間と愛情をかけてきたからこそ、甘くて大粒のブルーベリーが実っているのですね。
県内外に評判が広がるブランド果実に
「ある時、『いただいたブルーベリーがあまりにおいしかったので注文したいんです」とお電話があったんです。お聞きすると、ブルーベリーの名産地である愛知県岡崎市の方でね。近くにもブルーベリーの産地があるのに、わざわざ注文してくださったのだと思うとうれしくて」と、とよ子さんがエピソードを教えてくれました。当園の評判は今や県外にも広がり、県外発送の注文も増えているそうです。寒竹ファミリーの明るいキャラクターや、ブルーベリー栽培にかける愛情を知れば知るほど、リピーターが多いのもうなずけます。
「美咲町という岡山県の中山間地の自然を生かして、今まで独自の栽培と管理方法を一生懸命考えてきました。これからは、このブルーベリーの果実や加工品の地域ブランド化を目指すことで、地域の活性化や自然環境の維持につながれば」と、ファームが目指す方向について、静かに熱く語ってくれた昭則さん。家族で育てるブルーベリーがまた来年の夏もたくさんの実をつけることでしょう。